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福岡地方裁判所 平成3年(ワ)676号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、原・被告間に平成二年三月一二日締結された別紙二記載の自動車共済契約に基づき、別紙一記載の交通事故によって伊藤千鶴子、三小田秀雄及び吉田好子が被った損害について、支払義務のあることを確認する。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告と被告とは、平成二年三月一二日、別紙二記載の自動車共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結した。

2  米澤英明(以下「英明」という。)は、別紙一交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)を起こし、伊藤千鶴子、三小田秀雄及び吉田好子に傷害を負わせた。

3  ところで、原告と被告とは、本件共済契約を普通共済約款に基づいて締結しているところ、同約款第一条は、被告は、共済証書記載の自動車(以下「被共済自動車」といい、本件共済契約の被共済自動車を「本件被共済自動車」という。)の所有、使用又は管理に起因して、他人の生命又は身体を害することにより、被共済者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を填補する旨規定し、同第三条が被共済者の範囲を定め、これによると、〈1〉記名被共済者、〈2〉記名被共済者の承諾を得て被共済自動車を使用又は管理中の者等一定の者を被共済者としている。

また、本件共済契約の普通共済約款一般条項第五条には、「被共済自動車が譲渡された場合であっても、この共済契約によって生ずる権利及び義務は、譲受人(所有権留保条項付売買契約に基づく売主を含む。)に移転しない。」旨、また同第二項には、「当組合は、被共済自動車が譲渡された後に、被共済自動車について生じた事故については、共済金を支払わない。」旨の条項がある(以下「本件約定」という。)。

4  本件共済契約では、被共済自動車の記名被共済者は、原告の娘である松崎さとみ(以下「さとみ」という。)である。

5  原告は、「英明は、さとみから本件被共済自動車を一時借り受けて、運転中に本件事故を起こしたのであるから、被告は、本件共済契約に基づき本件事故による損害を填補すべき義務がある。」と主張する。

6  これに対し、被告は、「原告は、平成二年八月三〇日、米澤真一(以下「真一」という。)に対し、本件被共済自動車を売り渡したから、被告は、本件約定によって、本件事故について、本件共済契約上の支払義務はない。」と主張している。

二  争点

事案の概要6記載の被告の主張事実(本件被共済自動車を原告が真一に対し先り渡したこと)が認められるかどうかが争点である。

第三争点に対する判断

一  乙第二、第三、第六、第九、第一一号証、証人米澤英明、同米澤真一、同大石貞義の各証言(証人米澤英明、同米澤真一についてはその一部)によれば、本件被共済自動車は、原告の娘さとみが主に使用していたが、さとみは、平成二年七月頃、本件被共済自動車のほかに新たに自動車を購入したため、本件被共済自動車を処分することにし、友人の中原敬に買主を捜してもらっていたところ、同人から買わないかと勧められた英明はこれを買いたいと思ったが、当時同人は無免許であったので、ちょうど滋賀県から大牟田市に帰って来ていた兄の真一に相談して、真一の名で買うことについて同人の承諾を得たこと、そこで、さとみと英明とは、同年八月三〇日、真一が、本件被共済自動車を、代金一五万円、ただし同年九月四日内金七万五〇〇〇円、同年一〇月一五日残金七万五〇〇〇円を支払う約で、買い受ける旨合意し、その頃さとみは、英明に対し、本件被共済自動車を引き渡したこと、さとみは、同年九月四日頃英明から右代金の内金七万五〇〇〇円の支払を受けたこと、さとみは、その頃までには、父の原告に右のように売買をしたことを話して、原告の了承を得たこと、以上の事実が認められる。

証人米澤英明、同米澤真一、同中原敬の各証言中以上の認定に反する部分は前掲各証拠と対比して、直ちに採用することができない。

二  そうすると、被告は、本件約定によって、本件事故について、本件共済契約上の支払義務を負わないことが明らかであるから、原告の本訴請求は、理由がないので、棄却を免れない。

(裁判官 堂薗守正)

別紙一 交通事故目録

一 日時 平成二年九月一八日午前〇時三五分頃

二 場所 福岡県大牟田市港町一番地 屋台小萬方

三 加害車両 普通乗用自動車(久留米五六た二一三)

四 右運転者 米澤英明

五 被害者 伊藤千鶴子、三小田秀雄、吉田好子

別紙二 自動車共済契約内容

一 契約締結日 平成二年三月一二日

二 契約者 松﨑建次

三 記名被共済者 松﨑さとみ

四 共済期間 平成二年三月二九日から平成三年三月二九日

五 被共済自動車 三菱ミラージュ(久留米五六た二一三)

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